出店者インタビュー 知る 2022.10.25 【出店者インタビュー003後編】The Factory of Salumeria 久保田友紀さんナチュラルな食文化の担い手たちに様々なお話を伺う、『出店者インタビュー』第2弾、The Factory of Salumeria 久保田友紀さんへのインタビュー後編です。 タベミン編集部(以下-):飲食店が自然体でまた来てくれる場所としてあるっていうのはすごくいいと思うんですけど、それってあっちを立てれば…みたいな感じというか。 久保田さん:そうです。でもそのなかで、なるべくインパクトを強めようとして、最近は結局、肉感をしっかり際立たせるような味わいにしてて。 「ソーセージっていうよりほんとなんかお肉っていう感じですね」とかよく言われるんです。「まあ、腸にお肉詰めてますからね」って(笑) お客様が自分で言って自分で気付くんですよね。「そうですよね。私はじゃあ今まで何を食べたんでしょう?」って(笑)「あれは、水と油と動物性たんぱくのエキスですね・・・」みたいな。 —:お店は当たり前の存在でありつつ、忘れられない印象としてソーセージがある? 久保田さん:まあ、ソーセージ自体は、すごいキャッチーなものだと思ってるんですよ。手作りの自家製ソーセージとかなんかよさそうじゃないですか。 とりあえずよさげに惹かれるかなと思うんですけど、それを悪く言ったら、そういう顧客の心理を利用して上手に商売やっとけばよかったんです。 でも、僕がちょっとややこしい人間過ぎて、考えに考えすぎて、変な世界まで来ちゃいました(笑)気づけばこんなことになってましたね。 問題がある、と言えば、高いってことですかね。その問題に関しては、まだ解決策は見つかってないです。 —:それは、高く感じられるってことですか? 久保田さん:高く感じられるっていうか、ソーセージっていう言語で、同じものと認知されるものに、もっと安いものが世の中にあるので。 一番最初に言った、知識的な話をしっかり理解してもらえば、あれとこれが全然違う成り立ちのものっていうことが理解できるんですけど、そんな入り口から入ってきたら、絶対挫折するじゃないですか。 —:僕はおもしろかったですけどね、鮮度の話とか。phのところがわかんなかったですけど。真ん中に寄せた方がいいんですか? 久保田さん:アルカリに寄せた方がいいです。だから、リン酸塩(注①)のことをph調整剤って書いて入れてる会社もありますね。 塩でたんぱく質が柔らかくなってゲル化してくっつくっていう作用が、時間が経つと緩んでいくんですけど、リン酸塩を入れてアルカリ性に寄せることで、もう一度グッと戻せるんですよ。鮮度が悪くなったお肉でも。 なんていうか、これは勝手な僕の持論ですけど、結局グッと繋がる力を持ったお肉にするか、鮮度が悪いそのままのお肉か、そのあいだがないんですよね。めちゃくちゃプリンプリンにきれいに繋がっちゃうんですよ。かまぼこみたいに。 不自然な状態なのか、鮮度が悪い状態なのかにしかできなくて。そのあいだに、本来お肉が持ってる結着力っていうところがあって、それが今ウチがやろうとしてることなんです。食べた時に、繋がってるしプリッという感じもあるけど、ちょっと抜けていくような部分もあってという感じの。 それをゲル化させてバチッと固めることもできるけど、僕から言わせたら、それは自然の力でも本来抜けてしまうような成分だったんだから、抜けていって仕方ないんじゃない?って思ってます。 —:なるほど! 久保田さん:添加物を使うことによって、ちょうどいい量に調整して、自然なレベルを再現すれば、もっと安くて鮮度の悪いお肉、冷凍解凍みたいなお肉を仕入れてやることもできるんですけど、そんなことして何になるんすかって感じじゃないですか(笑) —:ちゃんと鮮度のいいお肉を適切な時期で作ればいいっていうことですね。 久保田さん:それで最後に出てくるのが、リン酸塩って体に悪いんですよねって話。 —:なんでわざわざ添加物入れるの?って。 久保田さん:そうそう、安いを実現するための正解はそこですけど、それなんで自分がやらないかんの?って話になってくるから。 —:悪循環というか。 久保田さん:悪循環っていうか無駄循環ですよね。 まあ、得てして儲からないっていう(笑) —:そうですよね。手間や金銭換算できないコストがいっぱいかかると思いますし。ずっと試行錯誤が続いて時間がかかるわけですから。 久保田さん:だから「ソーセージ」「手作り」っていうキャッチーな要素にだいぶ前半戦は助けられましたね。とりあえず一回食べてみようみたいな。 —:それこそ、もう別の名称のものであって欲しいくらいですね。 久保田さん:そうなんですけどね。でも、例えばめちゃくちゃこだわりのラーメン屋さんが、「ウチはラーメン屋じゃなくて、小麦を使って麺を作って、素材から取った出汁と一緒に楽しんで頂く店です」って言ったとしたら、それはちょっとなと思ったんですよ。 「ウチはソーセージじゃなくて、腸に手入れした豚肉を詰めておいしくお客様に食べて頂くお店です」って、百人中百人が「それソーセージやろって」いいますよね。そこまでぶっとんではないようにしてますよ。 そういう意味で、添加物入りのソーセージの人気を借りてるところはあるので、リスペクトは忘れないようにしてますね。 最初にも話した通りですけど、例えばウチのパテとかは、あれは低温で長期熟成なので、あれはさすがに硝石(注②)とかは入れてます。 ソーセージの方は、ウチは-20℃の冷凍庫で保存して、オーダーが入ったら高温で焼くので、衛生的な話で言うと全然無添加でも大丈夫なんですけど、衛生面がダメなシャルキュトリもあるので。 ただ、ワインもそうだと思うんですけど、ソーセージにも一見ナチュラルでほっこりするようなワードとかを入れ込みながらも、添加物しっかり使ってるのってあるじゃないですか。それに関しては最低やなって思いますね。 添加物を入れることがダメとか言うつもりはないですけど、今言ったようなことは最低だと思います。 ほんとにお金ですよね。正々堂々とやってくれればいいのに。変な仮面被らずに、利益と悪魔的うまさを追及してますって顔で近づいてくれればそれでいいんですけど。 —:難しいですよね。 久保田さん:シンプルに知識量もいりますしね。なんでもそうですけど、器が準備されてないと注がれないですからね。溢れちゃいますから。 でも、ワイン、農業もそうかもしれないですけど、限界は来ますよ。だってこのままずっと農薬を使い続けてて、生産量が減って、しんどいなってなって、もっと肥料、農薬の量増やそうってなっていって、肥料とか薬の値段はどんどん増えていくから、それを原価に反映させようってなったら、いつかナチュラルな生産者が追い抜くところがあると思うんですよ。 分岐点みたいな。「じゃあ、最初っから使わなきゃよかったじゃん」って。いつか追い抜く分岐点があると思う。 で、追い抜く前から誰かが応援してあげないと。折角いいなってことしてはる人なんだから。自分がビジネス的にしんどいから余計にそう思うんでしょうね。 自分がホントにいいと思って作ってるんだけど、なかなか儲かるラインではないんだよなっていうのを思いながら仕事してるから、逆にそういう人見ると「おお、あんたも頑張れ!」ってなるのかもしれないですね。 —:そこのところをもっともっと知ってもらわないといけないですね。 久保田さん:でもやっぱり、説教くさくならないようにね。入り口は「楽しい」「心地いい」じゃないと。 —:でも「分かりやすい」に迷い込まないようにしたいですよね。 久保田さん:何でもいいってわけじゃないんだよねっていうね(笑) —:他のジャンルでは自分も理解できていないかもしれないですしね。 久保田さん:そうかもしれないですね。押しつけは良くないですけどね。 —:ただこういう仕事をやっている以上は、伝えられるものは伝えたいってのは少なからずありますよね。 久保田さん:いつでも隙あらば、チャンスがあればいってやるぞってのは思ってますけどね。 —:その機会を沢山作りたいですね。折角タベミンができたので。発信していきたいです。 そして、これだけ話してきて今更になっちゃったんですが、タベミンで出品しているソーセージのはなしを聞かせてください。使用しているスパイスの使い方で意識しているところはありますか? 久保田さん:ニンニクとか黒コショウとかありますけど、お肉の味を際立たせるために入れているっていう感じで。他のスパイスとかも全部そうですけど、前に出過ぎない。 黒コショウとかニンニクとかバッチバチに聞かせた方が、確かに「ビールが進むぜ」みたいな味にはなるんですけど、何回も言っている通り、じゃあ、京丹波高原豚さんじゃなくてよくない?みたいな味わいになってくるので。 やっぱりこれは、赤身が強くて、味が濃いねっていうところをしっかり残していきたいって思っているんで。 —:京丹波高原豚は、なにかのきっかけが? 久保田さん:色々やってたんですけど、ソーセージを無添加で作るとなると、鮮度が大事になってくるので、単純に距離の問題が生まれるんです。 京丹波高原豚にかんしては、赤身がしっかりしてて、味が濃いですね。無茶苦茶悪く言うと、固くて筋張ってるみたいな印象を受ける方もいるかもしれないんですけど。 —:肉感のあるソーセージにしたいっていうなかで、行きついたんですか? 久保田さん:そうですね。あと、そもそも冷凍とかしちゃダメなんで、豚の種類の選択肢は3、4個くらいしかなくて。三重と京都とか。 これソーセージの加工に向いてるね、から始まったんですけど、でも折角この豚さんを使うんだったら、「この豚さんのいいところが出ないとね」みたいな感じになってきて、どっちが先かはわからないですね。 —:1号店のサルメリアさんの当初の時から一緒ですか? 久保田さん:最初に、もうちょっとジューシーさを求めていたときは、脂がしっかりある豚を使ったこともあったんですけどね。 なんでそうしてるかっていうのは、全部、結果のはなしで。さっき言った一番根源的な部分が分かれば、なんでもすとんと腑に落ちるかなと思います。 インタビューって嬉しいですね。こんなに面白くない話聞いてくれる人なかなかいない。 —:おもしろいですけどね。 久保田さん:お互い変態の域に達しちゃってますからね(笑) —:なんか似てるところあるなと思うと色々聞きたくなりますね。ありがとうございました! 久保田友紀さんのインタビュー後編、いかがだったでしょうか? The Factory of Salumeriaさんのソーセージの商品ページはこちらから! 注①:結着剤『ハムやソーセージ、かまぼこ、めん類などの組織の改良、すり身の冷凍によるたんぱく変性の防止、解凍時のドリップ防止などの目的で使用します』(引用:東京都福祉保健局「食品衛生の窓」) 『リンは、様々な食品に含まれている。加工食品などでは食品添加物としてのリンの使用も多いが、使用量の表示義務がなく、摂取量に対する食品添加物等の寄与率は不明である』(引用:厚生労働省「日本人の食事摂取基準 P296」(2020年版)) 注②:硝酸カリウム『無色の結晶又は白色の粉末で、食品中で亜硝酸となって効果を現します』 注③:『土壌や海、湖、川などの泥砂中に分布している嫌気性菌で、熱に強い芽胞を形成します。ボツリヌス菌の芽胞は、低酸素状態に置かれると発芽・増殖が起こり、毒素が産生されます。この毒素は、現在知られている自然界の毒素の中では最強の毒力があるといわれ、A~Gまでの型に分類されています』(引用:東京都福祉保健局「食品衛生の窓」)
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