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出店者インタビュー 知る 2022.10.11

【出店者インタビュー002】WINEMAN FACTORY 井上裕一さん

ナチュラルな食文化の担い手たちに様々なお話を伺う、
『出店者インタビュー』第3

今回は、ワインマンファクトリーの井上裕一さんにお話を伺いました。

 東京三田で古民家を改装し、レストラン、ワインショップ、ワイナリーの複合店を営む井上さん。

3つ一緒にってできるんだ?」という驚きとともに始まったインタビューでしたが、やってみようと思った時にパッと動けてしまうバイタリティに触発されっぱなしの時間でした。

  製造・販売・提供とワインが作られて飲まれるまでのすべてに関わる井上さんの視点や、今月発売となるワインのエピソードなど、凝縮のインタビューです!

※インタビューは930日に行いました。

ゼロですよ 

タベミン編集部(以下―):ワインを自分で作ってみようと思った、そもそものきっかけはなんだったんですか?

井上さん:別の店でサービスやってた友達がワイン作りをやり始めて。
 飲んで売るだけじゃなくて、作るっていう選択肢を初めて知って、それで興味持ったっていう感じです。

:ああ作ってみるのもありか。って作り始めてみた感じですか?

井上さん:はい。

:で、そこからブドウ栽培してる方と繋がって?

井上さん:そうです。
 なんか、勝手にひとがひとを繋げてくれる感じなんですよ。今までと全く違う畑だったんで、ゼロからじゃないですか。
 誰かが助けてくれる感じで、なんとなくうまくいきましたね。 

:ワイン作ってみたいっていうのをいろんなとこで言っていくうちに、紹介されたんですか?

井上さん:そういうのもあったんですけど、とりあえずスタッフ全員で片っ端から日本ワインを飲みまくったんですよね。日本ワインに関しては知識がゼロだったんで。
 なんかあんまりいいイメージなかったんですよ、もともと。大手の甘いワインが日本ワインだと思い込んでいたので。
でも飲んでみたらおいしいワインがいっぱいあって。それを辿っていったら、最終的に岩谷さんだったんですよ。 
 岩谷さんがヒトミワイナリーとかフジマル醸造所とかでいろいろ作ってた頃で、「これもいいね。これもいいね」ってなったワイン作ってるのが全部岩谷さんだったんですよ、たまたま。

「この人誰だ?」って話になって。

 そのタイミングで、岩谷さんも山形でワイナリー立ち上げてて。
今まで気にも留めてなかったんですけど、気にするようになったら、岩谷さんたちが試飲会みたいなのをやるイベントの告知がたまたま目に入ったんですよ。
 それに参加して。
 その時に直談判で「新しくワイナリーやられるって聞いたんですけど、そこでなにかやらせてくれませんか?」って。 

―すごい話ですね、それ。

井上さん:そしたら、二つ返事で「いいよ、いいよ」って感じで。

:岩谷さんのところで委託醸造するときのブドウは、岩谷さんが「これでつくってみな」って分けてくれたんですか?

井上さん:というか、そんなのも知らなかったから、手ぶらで行ったら、「ブドウない」って話になって。用意してくれてるもんだと思ってたんですよ。
 で、その年の岩谷さんの分から少し分けてもらって。だから初年度(2019年)はデラウェアを200キロですね。 

:岩谷さんが手取り足取り教えてくれたんですか?

井上さん:ああ、ゼロですよ。

―ゼロ!?

井上さん:「ちゃんと、どういうワイン作りたいか、勉強してきてね」って言われて。なんも知らないんで、とりあえずいろいろ漁って。
「まあ、潰してほっときゃできんだろ」ぐらいの感じで。
 岩谷さんも「おおよそあってるよ」って。「経過とかは山形だから遠いから、途中途中連絡するよ」って話になって。
 まあ、あいだあいだは全部やってもらった感じはあるんじゃないかなって。なんも言われないですけど、そう思いますね。

 :それで出来上がったワインはイメージした味わいになってましたか?

井上さん:ん~。イメージっていうのが岩谷さんしかないんで。自分の知識として。だから、岩谷さんのところでやって岩谷さんがやってるから、そんなに相違はなかったですよね。
 ただ、発泡をやりたかったのに、普通にスティル(発泡なし)ができたので、「まあ、次は頑張ろう」くらいな感じですかね。

:その翌年は、東京ワイナリーなんですよね?

井上さん:そう。結局、旅費、時間が。山形は行って帰ってくるまで10時間なんで。店にも影響するし、コストに全部返ってくるし、近いところでやりたいなと思って。
 岩谷さんにある程度いろいろ聞いてたから、なんとかなるでしょって。
 それで、翌年のシードルから越後屋さんのところ(東京ワイナリー)でやらせてもらって。

:その時は井上さんがよく見にいけたってことですか?

井上さん:そうですね。練馬なんでちょくちょく様子見にいけましたね。

:2つのワイナリーで研修するっていうよりは、最初から実践って感じだったんですね。

井上さん:ああもう、山形はぶっつけ本番ですよ。よくわかんないまま出来上がって終わってました。

:東京ワイナリーの時は、ブドウの生産者さんは山形の時と継続して?

井上さん:その年までは繋がったんですけど、たまたま余ってるブドウあるからやる?っていう新しい農家さんとも繋がったんですよ。その人とは今でもつながってます。

うまく時間かいくぐってやってます

:レストラン・ワインショップ・ワイナリーを3つ同時にって、どういう時間配分なんですか?


井上さん:みんなへとへとですよ。
 平日は朝6時起きて魚河岸行って、9時ぐらいに店に着いて、午前中はレストランの仕込みですね。
 ワインショップはスタッフに任せてるんで。
 レストランも日曜日はもともとやったりやんなかったりなんで、ワイン始まったら、大きい仕込みは日曜日ですね。
 平日も水曜日は河岸が休みなんで、水曜日に絞る作業をなるべく持って行けるようにして、金曜日も仕入れ少なめに調整して、その日に瓶詰してみたいな。うまく時間かいくぐってやってます。
 そのあと休んで、夜レストラン営業して、1時くらいに家帰って、ドラマ見て。3時くらいに寝る感じですかね。

:それで6時に起きてるんですか?すごいな。

井上さん1日を2回に分けてるんですよ。36時と1617時が睡眠なんです。それがなんかちょうどいいんですよ。

むこうはプロだから、任せた方が間違いない

:今年は、デラウェアは山形、マスカットベリーAMBA)は山梨、スチューベンはどこですか?

井上さん:スチューベンは山形と青森ですね。 

:デラウェアも取りに行くんですか?

井上さん:ああ、持って来てもらいます。取りに行って、持って帰ってくるってすると、仕込みが次の日になっちゃうんで。この時間のロスが結構イヤなんですよね。 
 持って来てもらった方が早いんですよ、間違いなく。
去年まで摘みに行って持って帰ってたんですけど、今年からやめました。 
 僕らは、素人だし。むこうはプロだから、任せた方が間違いないんですよ。そもそも僕らはレストランなので。肉とか魚とか、買うものじゃないですか。感覚はその辺りと変わらないんで。
 いいの作ってくれてる人が、上手に持ってくるっていうのが、一番いいかなって。 

 だから、他の生産者の人がどう思っているか知らないですけど、ウチはやっぱり違うと思うんですよね、その辺が。常に第三者なので。
 ブドウは農家さんが育ててくれるし、ワインは自力で出来上がっていくし。 
 だから、もしワインがうまくいかなくても、どうやったらおいしく飲めるか考えるだけです。
 ウチはワイン作るだけじゃなくて、レストランで飲ませるのが、最終的な目的なんで。 それを家でも飲めますよっていうのを形としてやっているだけで。どうやって飲むのが一番うまいかっていうのを考えるところまでが、うちらの仕事だと思っているので。

アナゴとかサフランとか、すごくいい感じ

:今年のワインはどうですか?

井上さん:今年はおとなしめです。やり方変えたんで。
デラウェアが明日(10/1⁉)ラベル届くんで、10月頭からレストランに卸し始めるんですよ。で、一通りレストランが買ってくれてから、小売りにしようと思ってて。

:今回のデラウェアがインスタで上がってた、タンクから噴き出してたワインですよね?

井上さん:そうです、そうです。なんでかわかんないけど、急に吹き出しちゃって。例年ではありえないんですよ。
 たぶん、潰した中の果肉に糖分が結構残ってたぐらいしか考えられなくて。 

:発酵の勢いがすごかったみたいなことですか?

井上さん:そうですね。ワイナリーはいつも20℃なんですけど、発酵すると余裕で20℃超えちゃうんです。
氷でもぶっかけない限り冷めないから。あのぐらいになっちゃうと。
 それはちょっとお金もかかるし、手間もかかるし、できないんですけど、ワインが勝手になっちゃった感じですね。 

:その年々でどう発酵していくかわからないですね。

井上さん:あんまり量をたくさんやらない方がいいなって、最近思ってるんですよね。

:ひとつのタンクの仕込みでってことですか?

井上さん:やっぱりタンクに対してぎゅうぎゅうに詰めた方が、酸化するリスクに対してはいいじゃないですか。二酸化炭素充満させるにもちょうどいいし。
 酸化に関してはすごくいいんだけど、発酵って話になるとまた別で。
 たぶん、大きな空間で量が少ない方が、温度が上がりづらいはずなんです。そう考えると今回は9割タンクに突っ込んでいるんで、常に。
早いんですよね、発酵の速度が。元気玉状態です。ホント。なので、来年から一回の仕込み減らそうかなと。 

:もう瓶詰は終わられてて、ラベル待ちいうことでしたよね。

井上さん:そうです。あとスチューベンもラベル待ちですね。

:その今年ワインの味わいというか、どうですか?

井上さん:デラウェアの1発目の仕込みのやつは、この間開けた時は、泡抑えめで。酸もきりっとしてましたね。香りも結構しっかり出てて、印象はいいんですよ。ご飯と合わせたり、食前にとか全然問題なくいけます。
 で、2発目のやつが泡が全然来なかったんで、スティルとして出します。結構冷やして、アナゴとかサフランとかと合わせたんですけど、すごくいい感じでしたね。
 ベリーAに関してはちょっと、もう、待つしかないって感じですかね。いまのとこは。泡はあがってるんですけど、酸が結構出てて。

 今年はどのブドウもなんか酸っぱいんですよね。で、果実味が思ったよりも出てないんですよね。
 Brix17%(※糖度計で測る甘さの単位。溶液100g中の濃度を表す)くらいで始まったんですけど、アルコールも8.5%だし。 厚みがない分、泡で軽快にして冷やし気味で飲んでもらうみたいな感じで狙ってて。
 意外に焼いた青魚とかいけるんですよ。脂を抜いて、香りの生臭さとかも抑えたブリとかも。なので、飲み方伝え方によるかな、と。
 スチューベンは来週搾りですね。いまいい感じですよ。ロゼ色で。

:今年のデラウェアが、ディオニーの扱っているドイツの生産者ヤン・マティアス・クラインのリトル・バスタードみたいだって仰ってたと伺ったんですが。 

井上さん:そうそう!香りのパッとの印象がすごい似てるんですよ。キュッとした酸もあって。

リンゴとブドウのワイン

:あと、これもインスタで見たんですけど、フジリンゴとロザリオを混ぜるっていうのもやるんですか?

井上さん:ああ!あれ(笑)
 いい加減だなぁと思うんですけど、ブドウの作り手の土屋農園の土屋さんが、車に乗んなかったからロザリオ20キロだけ持って来ましたって。
 20キロでなにせぇって感じなんですけど。
 かごひとつだけ持って来て。お中元じゃねえんだよ!って。

 それは今除梗だけして冷凍していて。とりあえず混ぜてみようかなって。分量に関しては調整不可なんで、とりあえず混ぜるってだけ決めてあります。
 でも期待できるのは、リンゴってphがすごい低いんですよ。だからよく酢酸出たりとかって聞くんで、ブドウ入れることで抑制が効くはずで。ロザリオ自体がそんなに酸が強いブドウじゃないんですけど、今年の傾向が結構酸っぱいので、なんかいい感じで酸をもたらせればいいなって期待をしてます、今のところ。

:仕込みもこれからですね。

井上さん10月半ばからですね。青森からスチューベンと一緒にリンゴ積んできてもらうので。リンゴは青森が一番早いみたいで。それが最初で、そっから全国みんな11月に収穫なので、青森から。

:ワインが終わったら、次はリンゴの仕込みなんですね。

井上さん:そうです。だからシードルは毎年年明けにやってるんですけど、今年はそのロザリオの件があるから。今年はロザリオが山形の水害がひどくてほとんど腐ってしまって、例年の想定が違ってしまったんで、わかんなくなってます。
 ワインと一緒ですよ。どうなるかわからないっていう。 

ビールにグラッパにどぶろくも

:去年はブドウの搾りかすでビール作られましたよね?

井上さん:それこそ、今日ちょうど仕込みの画像送られてきましたよ。ベリーAの搾りかす全部送ったんですよ。だから今年は、1種類は100%次の形に回せたので。これは成果ですね、ウチとしては。搾りかす110キロくらいかな。
 今煮だして味と香りを抽出中ですって、画像が送られてきました。
埼玉の小川町ってとこのブルワリーなんですけど。
 で、一応まだこれは本決まりじゃなくて、仕込みの方法で交渉中なんですけど、山梨の塩山でボタニカルやってくれるところを一軒見つけて。今度の日曜日に口説きに行くんですけど。

:蒸留してグラッパ的なものを?

井上さん:ウチでロゼの蒸留酒を作りたくて。
 シチリアであるんですけど。透明なやつをステンレスで一年寝かせた後に、次の年の赤ワインの皮を漬け込んで、ロゼ色のグラッパっていうのを作っているところがあって。
 すごい口当たり丸くて香りがあって、それをずっとやりたいなって思ってたんですけど、蒸留所が興味持ってくれたところが一軒あって。法律とか価格の面とかで受け入れてくれるんであれば、今年から仕込ませてもらおうかなって思ってます。

:またやることが増えるんですね、、、

井上さん:いや、送るだけなんで。蒸留は蒸留所の人がやるから。
 廃棄する量が多いじゃないですか。もったいないから、何かに変えたいなってずっと思って、いろんなところに当たってて。
 浅草のどぶろくつくってるところにその話したら、興味持ってくれて、今度ブドウのどぶろくやろうかって話も出てます。
やってみることには価値あるかなって思って。
 目標は搾りかすが100%どこかに次にいくっていう。
 廃棄になるっていうのが一番つまんないなって思ってて。
 まだ美味しいし、酵母も生きてるから、その廃棄を減らせるってのはいいじゃないですか。

 :そういうことを本気で考えてやらなきゃいけないですね。

井上さん:そう。ウチこそグリーンスター(※ミシュランガイドが2021年度版から掲載している、持続可能なガストロノミーに対し、積極的に活動しているレストランに光をあてるシンボル)ですよね。グリーンスター早く来ないかな。

:さらにこれからやりたいことありますか?

井上さん:やりたいことはそんなにないですね。むしろ維持ですね。もういろいろやったんで。
 やりながら気づくことが多いから、気づいた時にやれそうかそうじゃないか判断できる力をつけたいなって。何でもかんでもやっちゃうんで。ホントお金かかるんですよ。

:ところで、井上さんの写真を載せたいんですけど、絶対いやだっておっしゃるかなと思ってるんですが、写真ありますか?

井上さん:ああ、ないですね!

―:ですよね!今日はありがとうございました!!

 ということで、井上さんの写真はないので、
トレードマークのワインマンです。  

 そして、私たちも興味津々のボタニカルですが、早速井上さんの熱の入ったレポートがワインマンストアさんのインスタグラムに紹介されております

https://www.instagram.com/p/CjR97UvuTW7/?hl=ja
ここからの4回分の投稿は必見です!!

そしてそして、
今回の本題、ワインマンファクトリーさんのワインは本数限定で、絶賛発売中です!
 今回はデラウェア2種類。商品ページには井上さんからの味わいコメントも頂いていますので、ご興味ある方はぜひ!!

聞き手:タベルとミンナヴィレッジ 前田一成・遠矢敬宏

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